少子高齢化による労働人口の減少に伴い、従来の求人広告を出して「待つ」だけの採用手法では、優秀な人材の確保が極めて困難になっています。そこで今、注目を集めているのが「オウンドメディアリクルーティング」です。
本記事では、自社メディアを軸に採用を戦略的に進めるこの手法について、基本定義から導入のメリット・デメリット、具体的な始め方までを解説します。
- 「採用コストを抑えたい」
- 「自社にマッチした人材が来ない」
と悩む採用担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
オウンドメディアリクルーティングとは?
オウンドメディアリクルーティングとは、自社が所有するメディア(Webサイト、ブログ、SNSなど)を軸に、自社の魅力を直接求職者に届け、採用につなげる手法です。
| 比較項目 | 従来の媒体・紹介 | オウンドメディアリクルーティング |
| 情報の性質 | 「枠」を借りるフロー型 | 自社に蓄積するストック型 |
| コスト | 掲載ごとに発生し続ける | 中長期的には資産化し低減する |
| 自由度 | 規定のフォーマット内のみ | 無制限(カルチャーを深く伝えられる) |
「オウンドメディア」の重要性が高まっている背景
現代の求職者は、求人票を見るだけでなく、応募前に必ずと言っていいほど企業のSNSや口コミサイトを検索します。この「検索して納得してから動く」行動はマーケティング用語でZMOT(真実の瞬間)と呼ばれます。
情報の非対称性がなくなった今、企業が自ら「正しい情報」を網羅的に発信していなければ、候補者の検討土台にすら乗ることができないのです。
トリプルメディア戦略における「採用オウンドメディア」の役割
マーケティングにおける「トリプルメディア」の概念を、採用に当てはめると理解が深まります。
- ペイドメディア: 求人広告など。認知獲得に強い。
- アーンドメディア: SNSや口コミ。信頼性獲得に寄与。
- オウンドメディア: 核となる存在。 ペイドやアーンドで興味を持った層を最終的に「納得」させ、応募へ背中を押す役割を担います。
オウンドメディアリクルーティングの導入企業が得られるメリット
オウンドメディアリクルーティングの導入は、単に「応募を増やす」以上の大きな価値を組織にもたらします。
脱・広告依存による採用単価(CPA)の劇的な削減
広告費を払い続けなければ応募が来ない状態から脱却できます。一度作成したコンテンツはWeb上に残り続けるため、中長期的には1人あたりの採用単価(CPA)を大幅に下げることが可能です。
「自社のリアル」を発信することによるミスマッチと早期離職の防止
求人票の限られたスペースでは伝わらない「仕事の厳しさ」や「社風」「一緒に働く人の雰囲気」をありのままに伝えられます。入社後のギャップが減るため、定着率の向上が期待できます。
転職潜在層への早期アプローチと「タレントプール」の形成
今すぐ転職を考えていない「潜在層」に対しても、役立つ記事や社内の取り組みを発信することで接触を持てます。「いつか転職するならあの会社がいい」と思ってもらうことで、将来的な母集団(タレントプール)の形成につながります。
従業員エンゲージメントの向上とリファラル採用への波及効果
自社の魅力が記事化され、世の中に発信されることは、既存社員にとっても自社の価値を再認識するきっかけになります。社員が記事をSNSでシェアすることで、リファラル(社員紹介)採用の活性化も期待できます。
導入前に理解すべきデメリットとリスクヘッジ
メリットの多い手法ですが、当然ながらハードルも存在します。失敗を避けるための対策をあらかじめ確認しておきましょう。
即効性は期待薄
成果が出るまでの期間(6ヶ月〜1年)と「忍耐」の必要性記事を公開してすぐに数十人の応募が来ることは稀です。検索エンジン(SEO)に評価され、認知が広がるまでには最低でも半年から1年程度の期間を要します。「短期的な数値」だけでなく「中長期的な資産価値」として投資する姿勢が求められます。
運用リソースの壁
質の高いコンテンツを継続するための体制構築「書くネタがない」「業務が忙しくて更新が止まる」のは、よくある失敗パターンです。人事にすべて任せるのではなく、現場の社員を巻き込んだり、編集プロダクションなどの外部パートナーを活用したりして、持続可能な体制を整える必要があります。
専門知識の必要性
SEO、編集、Webマーケティングスキルの確保ただ日記のような記事を書くだけでは読まれません。ターゲットが検索するキーワードの選定(SEO)や、心を掴むタイトルの付け方、読みやすい構成案の作成など、一定のWebマーケティングスキルが必要となります。
求職者の心を掴む「発信コンテンツ」の企画と事例
「何を伝えればいいかわからない」という場合は、コンテンツを「機能」と「情緒」の2軸で考えると整理しやすくなります。
コンテンツの2大柱
- 機能価値: どんなスキルが必要で、どんな業務を行うのか。具体的で詳細な「職務記述書」です。
- 情緒価値: どんな想いで働いているのか、社会にどう貢献しているのか。企業の「価値観」や「物語」です。
この両方が揃うことで、求職者は「ここで働く自分」をリアルにイメージできます。
読まれる記事テーマの具体例
- 社員インタビュー: 「なぜ入社したか」「苦労したこと」などの本音は最も人気があるコンテンツです。
- プロジェクト裏話: 成功の裏側にある試行錯誤を語ることで、技術力や仕事への熱量を伝えます。
- トップメッセージ: 創業の想いや将来のビジョンを語り、共感を呼び起こします。
Z世代に響く「採用動画(ショート動画)」の活用戦略
テキストだけでは伝わりにくい「オフィスの空気感」や「社員同士の掛け合い」を伝えるには、TikTokやInstagramのリール動画のような縦型ショート動画が有効です。飾らない日常を切り取ることが信頼感に繋がります。
社内イベントや福利厚生を魅力的に見せる切り口
単なるイベント報告ではなく、「なぜその制度があるのか」「それによって社員がどう変わったか」というストーリーを添えるのがコツです。福利厚生の紹介も、実際に利用している社員の体験談をセットにしましょう。
失敗しないオウンドメディアリクルーティングの始め方(7ステップ)
Step1:KGI/KPIの設計
最終ゴール(KGI)は採用数ですが、そこに至るまでの指標(KPI)として、PV数、読了率、記事経由の応募数、採用単価などを設定し、効果を可視化します。
Step2:ターゲット(ペルソナ)の精緻な設定とカスタマージャーニー
「誰に届けたいか」を明確にします。年齢やスキルだけでなく、現在の悩みや、どのような情報があれば応募したくなるかという心理動線(カスタマージャーニー)を考えます。
Step3:自社の魅力(EVP)の棚卸しとコンセプト設計
EVP(従業員への価値提案)を定義します。「他社ではなく、なぜ自社で働くべきなのか」という独自のコンセプトを言語化します。
Step4:プラットフォーム選定
- note: 拡散性が高く、手軽に始められる。
- CMS(WordPress等): 自由度が高く、SEOに強い。資産性が高い。
- 自社開発: 独自のデザインや機能を追求できるが、コストがかかる。
Step5:運用体制の確立と予算配分
執筆、撮影、編集を誰が行うのかを決めます。社内リソースが足りない場合は、構成案の作成やライティングをプロに外注するのも現実的な選択です。
Step6:コンテンツ制作とデリバリー(SEO・SNS拡散)
記事を書いて終わりではありません。SNSでの拡散や、求人票へのリンク設置、スカウトメールでの引用など、ターゲットに届けるための導線を設計します。
Step7:データ分析とPDCAによる継続的な改善
どの記事が読まれ、どの記事から応募が発生したのかを分析します。反応が良いテーマを深掘りしたり、反応が薄いタイトルを修正したりと、改善を繰り返します。
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