企業の持続的な成長において、未来を担う新卒社員の獲得は極めて重要な経営課題です。しかし、少子高齢化による労働人口の減少や学生の価値観の多様化により、新卒採用市場は年々激化しています。このような状況下で、旧来のやり方を踏襲するだけでは、求める人材に出会うことは困難でしょう。
本記事では、新卒採用を成功に導くための「戦略立案」に焦点を当て、その重要性から具体的な7つのステップ、そして2025年卒採用で注目すべき最新トレンドまでを網羅的に解説します。戦略的な採用活動を実践し、貴社の未来を共に創る人材を獲得するための一助となれば幸いです。
新卒採用において適切な戦略立案が重要な理由
なぜ今、新卒採用に「戦略」が不可欠なのでしょうか。それは、採用市場が大きく変化し、計画性のない採用活動では企業の未来を危険に晒しかねないためです。ここでは、戦略立案が重要である理由を、近年の市場動向と、戦略なき採用が招く失敗例から解説します。
激化する採用競争:近年の新卒採用市場の動向
近年の新卒採用市場は、学生優位の「売り手市場」が続いています。リクルートワークス研究所の調査によると、2025年卒の大学生・大学院生対象の大卒求人倍率は1.75倍と高水準を維持しており、特に従業員300人未満の企業では3.69倍と、中小企業における採用難易度の高さが際立っています。
この背景には、生産年齢人口の減少という構造的な問題があります。さらに、学生の価値観も大きく変化しており、給与や企業の知名度だけでなく、「自己成長できる環境か」「社会貢献性は高いか」「多様な働き方ができるか」といった点を重視する傾向が強まっています。このような複雑化した市場で優秀な人材を獲得するためには、自社の魅力を的確に伝え、ターゲット学生にアプローチするための緻密な戦略が不可欠です。
参照:リクルートワークス研究所 大卒求人倍率調査(2025年卒)
戦略なき採用活動が招く失敗とは?
もし、明確な戦略を持たずに採用活動を進めてしまうと、以下のような失敗を招くリスクが高まります。
・採用目標の未達
ターゲットが不明確なままでは、効果的な母集団形成ができず、結果的に計画していた採用人数を確保できません。
・ミスマッチによる早期離職
採用基準が曖昧なために、社風や業務内容に合わない人材を採用してしまい、入社後すぐに離職してしまうケースです。これは、採用コストが無駄になるだけでなく、既存社員の士気低下にも繋がります。
・採用コストの増大
効果の薄い採用チャネルに費用をかけ続けたり、選考プロセスが非効率だったりすることで、一人当たりの採用単価(採用コスト)が高騰します。
・内定辞退率の増加
候補者に対する魅力づけやコミュニケーションが不足し、他社に優秀な人材が流れてしまいます。特に売り手市場では、内定後のフォロー体制が内定承諾の決め手となることも少なくありません。
これらの失敗は、いずれも企業の成長を鈍化させる深刻な問題です。だからこそ、感覚や慣例に頼るのではなく、データと目的に基づいた戦略立案が求められるのです。
新卒採用戦略を立案するための7つのステップ
新卒採用を成功させる戦略は、決して複雑なものではありません。基本的なステップを一つひとつ着実に実行していくことが、目標達成への最短ルートです。ここでは、戦略立案から内定者フォローまでを、具体的な7つのステップに分けて解説します。
Step 1: 採用目標と社内体制の明確化
最初のステップは、採用活動の「目的」と「目標」を明確にすることです。単に「〇人採用する」という 目標だけでなく、「なぜ新卒採用を行うのか」「どのような人材が、どの部署で、どのように活躍することが事業成長に繋がるのか」という質的な目的を経営層や事業部門とすり合わせることが重要です。
確認すべき項目
・採用目的
事業計画に基づいた増員か、次世代リーダー候補の育成か、組織の多様性推進か。
・採用人数と配属計画
部門ごとの必要人数と、その根拠。
・採用スケジュール
いつまでに採用活動を完了させる必要があるか。
・採用予算
広告費、人件費、ツール導入費など、確保できる予算の総額。
・社内協力体制
面接官のアサイン、リクルーターの選出、OB/OG訪問への協力依頼など。
これらを文書化し、関係者間で共通認識を持つことが、戦略の基盤となります。
Step 2: 求める人物像(ペルソナ)の具体化
次に、採用目標を達成するために「どのような人材に来てほしいのか」を具体的に定義します。この「求める人物像」を「ペルソナ」として詳細に設定することで、採用活動に関わる全員が同じイメージを共有でき、メッセージの一貫性が生まれます。
ペルソナは、単なるスキルや学歴の羅列ではありません。価値観、志向性、パーソナリティ、行動特性といった内面まで深く掘り下げて設定します。
ペルソナ設定の例
・基本情報
学部、専攻、サークル活動、アルバイト経験など
・スキル/知識
語学力、プログラミングスキル、専門知識など
・価値観/志向性
チームで成果を出すことを好むか、個人で探求することを好むか。安定志向か、挑戦志向か。
・情報収集の方法
どのようなWebサイトやSNSを利用して企業情報を集めるか。
・企業選びの軸
何を重視して入社する企業を決めるか(事業内容、企業文化、成長環境など)。
ハイパフォーマー社員へのインタビューや、過去に採用した人材の分析を通じて、より解像度の高いペルソナを作成しましょう。
Step 3: 明確な採用基準・要件の設定
ペルソナが固まったら、それをもとに具体的な「採用基準」を設けます。これは、面接官の主観や経験則による評価のブレをなくし、公平かつ客観的な選考を行うために不可欠です。
設定すべき基準
・MUST要件 (必須)
これがなければ選考通過が難しい最低限の条件(例:特定の資格、卒業要件)。
・WANT要件 (歓迎)
あればプラス評価となる条件(例:リーダー経験、特定のスキル)。
・評価項目
ペルソナの特性(主体性、協調性、論理的思考力など)をどのような基準で評価するか。
・評価方法
各選考段階(書類、面接、グループディスカッションなど)で何を見極めるか。
これらの基準をまとめた「評価シート」を作成し、全ての面接官に共有・研修することで、選考の精度を高めることができます。
Step 4: 自社の魅力(EVP)の発見と発信
採用は、企業が学生を選ぶだけでなく、学生から「選ばれる」ための活動でもあります。数ある企業の中から自社を選んでもらうためには、他社にはない独自の魅力、すなわち「EVP(Employee Value Proposition:従業員価値提案)」を発見し、効果的に発信する必要があります。
EVPは、給与や福利厚生といった待遇面だけでなく、以下の4つの要素から構成されると考えられています。
・事業・仕事の魅力
社会的意義、事業の将来性、仕事のやりがい。
・組織・風土の魅力
企業理念への共感、人間関係、社風。
・働く環境の魅力
柔軟な働き方(リモートワーク、フレックスタイム)、福利厚生。
・個人の成長機会
キャリアパス、研修制度、挑戦できる機会。
社員アンケートやワークショップを通じて自社のEVPを洗い出し、それをターゲットとなるペルソナに響く言葉で言語化しましょう。
Step 5: 最適な採用チャネルと手法の選定
設定したペルソナが、どのような媒体で情報を収集し、どのような接点を求めているかを考え、最適な採用チャネルと手法を選定します。
・就職ナビサイト
幅広い学生にアプローチできるが、多くの企業に埋もれやすい。
・ダイレクトリクルーティング
企業側からターゲット学生に直接アプローチできる。攻めの採用が可能。
・人材紹介(エージェント)
採用要件にマッチした学生を紹介してもらえる。成功報酬型が多い。
・リファラル採用
社員からの紹介。定着率が高く、採用コストを抑えられる傾向がある。
・SNS(X, Instagram, LinkedInなど)
企業のリアルな雰囲気や社員の声を届けやすい。採用ブランディングに有効。
・イベント・ミートアップ
オンライン/オフラインでの座談会や会社説明会。相互理解を深める場。
・大学キャリアセンター
大学との連携を深め、推薦などを得やすくする。
複数のチャネルを組み合わせ、ペルソナとの接点を多角的に設計することが重要です。
Step 6: 効果的な選考プロセスの設計と実行
選考プロセスは、単に候補者を「見極める」場ではなく、自社の魅力を伝え、候補者の入社意欲を「高める」場でもあります。候補者一人ひとりの体験を意識した設計が求められます。
設計のポイント
・各選考の目的を明確化
書類選考では何を見るか、一次面接では何を確認するか、最終面接では誰が決断するかを明確にします。
・迅速で丁寧なコミュニケーション
選考結果の連絡は迅速に行い、応募者からの問い合わせには丁寧に対応します。
・魅力的な面接官のアサイン
現場で活躍するエース社員や、学生の共感を呼ぶ若手社員を面接官に起用し、仕事のリアルな魅力を語ってもらいます。
・フィードバックの提供
選考の過程で、候補者の良かった点などをフィードバックすることで、誠実な企業であるという印象を与え、志望度を高める効果が期待できます。
候補者が「この会社で働きたい」と思えるような、ポジティブな選考体験を提供しましょう。
Step 7: 内定者フォローと入社準備
内定を出した後も、採用活動は終わりではありません。入社までの期間、学生の不安を解消し、入社意欲を維持・向上させるための「内定者フォロー」が極めて重要です。
内定者フォローの具体例
・内定者懇親会
内定者同士や先輩社員との交流の場を設け、横と縦の繋がりを構築します。
・メンター制度
先輩社員がメンターとなり、内定者の相談に乗る体制を作ります。
・定期的な情報発信
社内報や限定コンテンツなどで、会社の近況や入社までの準備について定期的に連絡します。
・内定者研修/e-ラーニング
入社前に必要なスキルや知識を学ぶ機会を提供し、スムーズなスタートを支援します。
・個別面談
人事担当者が定期的に連絡を取り、一人ひとりの不安や疑問に寄り添います。
丁寧なフォローを通じて、内定者が安心して4月を迎えられるようサポートすることが、内定辞退を防ぎ、入社後の活躍に繋がります。
2025年卒採用で注目すべき最新トレンド
採用市場の変化に対応し、競争優位性を確立するためには、最新のトレンドを理解し、自社の戦略に取り入れる視点が欠かせません。ここでは、2025年卒採用以降の活動で特に重要となる5つのトレンドを解説します。
デジタル技術の活用:AI、採用ツール
採用DX(デジタルトランスフォーメーション)の流れは加速しています。AI(人工知能)を活用したエントリーシートの自動評価や、面接日程調整の自動化ツール、採用管理システム(ATS)の導入は、人事担当者の業務負担を大幅に軽減します。創出された時間で、候補者とのコミュニケーションや戦略設計といった、より本質的な業務に集中できるようになります。
候補者体験(CX)の重視と個別化対応
候補者を「集団」ではなく「個」として捉え、一人ひとりに合わせたコミュニケーションを行うことが重要になっています。応募から選考、内定に至るまでの全ての接点における候補者の体験(Candidate Experience)の質が、企業の評判や入社意欲を大きく左右します。迅速なレスポンス、丁寧なフィードバック、候補者の興味に合わせた情報提供など、個別最適化された対応が求められます。
採用ブランディングと情報発信の多様化
企業のウェブサイトや就職ナビサイトといった従来のチャネルに加え、SNS(X, Instagram, Noteなど)やオウンドメディア、動画コンテンツを活用した情報発信が不可欠になっています。特に、社員の働き方やリアルな声、企業文化といった「テキストだけでは伝わらない情報」を発信することで、候補者の共感を呼び、効果的な採用ブランディングに繋がります。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進
多様な人材を受け入れ、活かすというD&Iの考え方は、企業のイノベーション創出や持続的成長に不可欠であるという認識が社会全体で高まっています。新卒採用においても、性別、国籍、学歴、価値観などの多様性を尊重し、誰もが公平に挑戦できる選考プロセスを設計・公表することが、企業の魅力を高める重要な要素となっています。
データドリブンな採用活動と効果測定
勘や経験に頼る採用から脱却し、データを活用して意思決定を行う「データドリブン採用」が主流になりつつあります。各採用チャネルからの応募数や選考通過率、内定承諾率、採用コストといったデータを分析し、どの手法が効果的であったかを可視化します。これにより、採用活動のROI(投資対効果)を最大化するための改善サイクルを回すことが可能になります。
新卒採用戦略の成功確率を高めるポイントと注意点
戦略を立案しても、実行段階でつまずいては意味がありません。ここでは、戦略を「絵に描いた餅」で終わらせず、着実に成果に繋げるためのポイントと、陥りがちな落とし穴への対策を解説します。
陥りがちな失敗事例とその対策
失敗例1:過去の成功体験に固執する
採用市場は常に変化していることを認識し、過去のやり方が今も最適とは限りません。最新のトレンドやデータを常に収集し、毎年戦略を見直す柔軟な姿勢が重要です。
失敗例2:現場(事業部門)の協力が得られない
戦略立案の初期段階から現場を巻き込み、「自分たちの仲間を採用する」という当事者意識を持ってもらうことが不可欠です。現場の負担を考慮し、面接の工数削減やマニュアル整備などのサポートを行いましょう。
失敗例3:ターゲット学生に自社の魅力が刺さっていない
企業が伝えたい魅力と、学生が知りたい魅力にはギャップがあるものです。ペルソナ設定を丁寧に行い、ターゲット学生の視点に立って、彼らが使う言葉で、彼らがいるチャネルでメッセージを発信することが重要です。若手社員の意見も積極的に取り入れましょう。
採用KPIの設定と効果測定の重要性
戦略の進捗と成果を客観的に評価するために、KPI(重要業績評価指標)を設定しましょう。
採用KPIの例
・量的KPI
応募者数、説明会参加者数、選考通過者数、内定者数、内定承諾数
・質的KPI
内定承諾率、採用単価、入社後定着率、選考辞退率
・チャネル別KPI
各採用チャネル経由の応募数、内定承諾率
これらのKPIを定期的に(月次、週次など)モニタリングし、計画通りに進んでいない場合は、その原因を分析して迅速に軌道修正を行うことが、戦略成功の鍵となります。
関係部署との連携と全社的な協力体制の構築
新卒採用は、人事部門だけで完結するものではありません。未来の仲間集めは、全社を挙げたプロジェクトです。
・経営層
採用の重要性を全社に発信し、予算や人員配置でバックアップする。
・事業部門
求める人物像の定義に協力し、魅力的な社員を面接官として派遣する。
・広報/マーケティング部門
採用ブランディングやSNS発信において連携する。
・全社員
リファラル採用に協力したり、学生からの問い合わせに快く応じたりする。
このように、各部署がそれぞれの役割を理解し、協力し合う文化を醸成することが、採用力を底上げし、最終的な成功に繋がります。
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